業界の重鎮が語る
「長く愛されるブランドの条件」

1973年の設立から半世紀、メルローズは日本の服飾文化に大きなインパクトを与えてきた。
時代が激しく変化する中、ファッション企業が永続するには何が大切なのか。
30年メルローズでキャリアを重ねて社長を務めたビギホールディングス社長の武内一志氏と、
日本のファッションを50年間見つめてきたユナイテッドアローズ創業者の重松理氏を迎えて特別対談を行った。
武内 一志(たけうち・ひとし)
1985年にビギにデザイナーとして入社。92年にグループ会社のメルローズに移籍。「マルティニーク」「ティアラ」などの主力ブランドを立ち上げ、従来の百貨店から、旗艦店やファッションビル中心の販売戦略へと舵を切る。2000年に常務、07年から社長。20年2月からビギホールディングス社長に就任
重松 理(しげまつ・おさむ)
1973年に婦人服メーカーのダック入社。76年ビームスの創業に携わり、1号店店長に就任。89年に退社し、ユナイテッドアローズを設立して社長に就く。2004年に会長。14年に取締役を退任し、名誉会長。日本の高い精神性と美意識の継承を理念とする「順理庵」をプロデュースするほか、公営財団法人「日本服飾文化振興財団」の代表理事としても活動する

店頭の接客からお客さまの課題を学ぶ

メルローズ50周年 特別対談
―今年でメルローズは設立50年、ユナイテッドアローズは設立34年。 長く愛されるブランドや企業の条件は何でしょう?

重松理ユナイテッドアローズ名誉会長(以下、重松):社会は常に変化していて、人々のライフスタイルも変わっていきますから、ずっと愛されるブランドであり続けることは簡単なことではありません。お客さまのライフスタイルに合致する商品を提供することが基本だと思います。ブランド側がたゆまずに新しい価値を見出して発信する。それにお客さまが魅力を感じ、消費を通じてブランドを支持する。トレンドやカルチャーに精通することはもちろんですが、セレクトショップはまず小売業です。店頭でお客さまと日々のコミュニケーションを重ねる中で、潜在的な課題を発見することが肝心です。お客さまの思いの先を読まなければ、心に響く提案はできません。

武内一志ビギホールディングス社長(以下、武内):同感です。ブランドや店舗がどこにも負けない強みを持つことですね。独自価値を追求して、お客さまにまだ見たことない景色を見せる。モノがあふれる時代はなおさらです。ユナイテッドアローズでも弊社でも、長く続いている業態には他が容易にはマネできない個性があります。

コロナ後はマーケットの細分化が加速した

メルローズ50周年 特別対談
―コロナ禍を経て、市場や消費者の変化をどのように見ていますか?

重松:東日本大震災やコロナ禍を経験して、ファッションは心を豊かにするものであり、社会には不可欠なものだと改めて感じました。パンデミックの不安の真っ只中には「ファッションは不要不急」だと言われたりしましたが、心に栄養を与えなければ人間は前に進めません。人間には欲があり、日々の暮らしにもワクワクやドキドキを求める。その意味でファッションは永久不滅です。仮にファッションが衰退したら、世の中も暗くなってしまいますよ。近年はファッションの意味は装うことだけではなくなっています。ブランドの社会貢献やサステナビリティへの姿勢も問われるようになってきました。

武内:コロナ前からあった傾向ですが、お客さまの嗜好が細分化しています。周囲に流されず、自分のライフスタイルを持つ人が増えています。若い女性だからコレが流行っているという現象は以前に比べて少なくなりました。大量生産・大量消費の時代が終わり、成熟化が加速したと感じています。

―ファッション企業が大きなトレンドを作り出すのは難しい時代なのでしょうか?

武内:マストレンドではなくても、世界観のあるブランドが魅力的なメッセージを打ち出していけば一定数のファンが支持してくれます。メルローズでは、その発信を日本国内だけでなく、海外にも広げるフェーズに入りました。海外のお客さまもたくさん来日して買い物を楽しまれていますし、ECもこれだけ発達して商品を届けられるようになりました。世界観がしっかりあるブランドであれば、国境を超えて海外に紹介できる。チャンスは広がっています。当社の「ピンクハウス」では最近、上海でお客さまとの交流イベントを開いて大盛況でした。中国でも熱狂的なファンが増えています。

日本的な根っこを持ったブランド

メルローズ50周年 特別対談
メルローズ50周年 特別対談
メルローズ50周年 特別対談
メルローズ50周年 特別対談
―「ピンクハウス」はかなり個性の強いブランドですが、中国ほどの人口ボリュームがあれば、大化けする可能性もありそうですね。

武内:おかげさまで日本でもいい結果を出せています。デザイナーの金子功先生の世界をメルローズが引き継いで、当時のテイストを今のマインドに合わせて提案しています。昨年50周年を迎えて、記念の展覧会を開きました。過去のアーカイブの展示をはじめ、現在活躍するアーティストとのコラボレーションを紹介するなど、面白い企画でたいへん好評でした。

―日本のファッションは海外では競争力を発揮できると思いますか?

重松:欧米向けのビジネスとして考えた場合、そのまま持っていっても成功はかなり難しいと思います。ただ、日本の伝統的な文化から生まれたものであれば、可能性はある。今、パリコレのランウエイでも裏原宿のストリートファッションが取り上げられたりすることはありますが、もともと欧米の文化を日本でアレンジしているので新鮮に映っているのでしょう。日本人のファッションをオシャレだと評価する声は欧米で結構ある。おもてなしや立ち振る舞いなどを含めた日本的な精神性を含めたブランディングが必要かもしれません。

武内:欧米に入り込むのは簡単ではないですよね。一方で日本に憧れているアジア諸国、特にインドネシアなど東南アジアでは中間層の人口が増加しており、ポテンシャルを実感しています。重松さんがおっしゃるように日本的な背景や精神性、独自性を持ったブランドでなければ、難しいと思います。

若い人は得意分野をとことん磨いてほしい

MELROSE Co.,Ltd
―これからのファッション業界を担う若い世代に伝えたいことは?

武内:明るい未来を思い描き、全力で暴れてほしいですね。昔の情報源は雑誌やセレクトショップなど限定されていたと思いますが、今はデジタル化でさまざまなコンテンツが発信され、多様化しています。一見すると逆境に思えても、少し角度を変えて見ると隙間があって、その光を突破口に何か突き詰めていけば、道は開けます。ファッションは楽しい。私はファッションを生業にできて幸せだと思っています。

重松:若い人には可能性がたくさんあるので、やりたいことに全力投球してほしい。これなら人に負けないという得意分野をとことん磨くことが若い時には大切です。個人的には引き算ではなくて、足し算のファッションを楽しんでほしいな。スティーブ・ジョブズの影響なのか、ミニマリストのファッションが今も絶大な人気があります。しかし、そればかりだと面白くない。戦国時代の武将はすごく着飾っていたと思うので、令和の武将も着飾るべしと思うんです(笑)。

  • TEXT:MAMI OSUGI
  • PHOTO:TAMEKI OSHIRO

本対談の前編は8月28日(月)発売のWWDJAPAN、WWDJAPANオンラインにてお楽しみいただけます。
また今後はWWDJAPANで、メルローズ50周年記念のインタビュー連載「メルローズと私」がスタート。
業界先駆者にメルローズとのエピソードを伺う、次回新連載もぜひご一読ください。

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