WWDJAPAN連載「メルローズと私」

BACKSTAGEVol.1

メルローズの50周年を記念し、
ファッション業界専門紙「WWDJAPAN」で連載中の
インタビュー企画「メルローズと私」もいよいよ最終回にー。

本50周年記念サイトでは「WWDJAPAN BACKSTAGE」として、
ゆかりある業界のゲストの方との取材後のトークをご紹介。
WWDJAPANの「メルローズと私」とあわせ、
ぜひアフタートークもお楽しみください。

日高麻子(Hidaka Asako)
鹿児島県出身。1980 年に(株)集英社に入社。『MORE』『LEE』編集部を経て 1986 年の創刊から MEN’S NON-NO 編集部に在籍。『MEN'S NON-NO』や『UOMO』の編集長を務めたのち 2018 年に取締役、2019 年に常務取締役就任。退任後、(株)集英社インターナショナルの代表取締役を務めたのち現在は同社顧問。

日高さんとメルローズ

メルローズ50周年 特別対談

1980年に集英社に入社後、現在まで続く人気ファッション誌の立ち上げから編集まで、レディース・メンズ問わず携わってきた日高麻子さん。メルローズとビギがデザイナーズ、DCブランドブームの成長に強く関わった1980年代、まだ若手だった頃の現・メルローズ経営陣と交流しながら、数々のファッションページを編集していたのが日高さんでした。取材日当日、ベテランエディターの面影を残す凛としたスタイルで現場にやって来た日高さんのバッグの中には、たくさんの雑誌のバックナンバー。「この表紙のニットはメルローズ。この巻頭特集はメンズメルローズ。このLEEは第1号で、はじめはこんな感じの雑誌だったんです」と、かつての作品でもある雑誌を手にしながら話す日高さんの表情に、いかに愛情深く大切に、“ファッション誌の編集”という仕事と向き合ってきたかが滲みます。本BACKSTAGEでは、日本発のファッションブランドが昇華する重要な時代から現代まで、その渦中で“最新”を発信してきた日高さんに、「メルローズが聞いてみたかった5つのこと」をインタビューしました。

日高さんに聞いてみたかった「あの頃のファッションと今」

1.メルローズをはじめ、日本の DC ブランドやデザイナーズブランドがファッションを遷座した 70-80年代、当時の新しいファッションは日高さんの目にどのように映っていましたか?

高校生の頃にファッション誌の「mc Sister」を愛読していて、当時はアメリカ東海岸の大学生のスタイル・アイビーにはまっていました。大学で上京し、専攻したのは服飾美学。アイビーには、《シャツならオックスフォード地のボタンダウン》・《ジャケットは段返りの3つボタン》・《何をどう外すと格好良くて、こうなると格好悪い》という風にいろんなルールがあって、そこに至るメンズ服のルーツにとても興味があったんです。
ところが大学での初めての授業で、西武美術館で開催されたファッションショー「三宅一生。一枚の布」を観に行って、衝撃を受けました。その 1 年後、すでにパリで活躍していた「KENZO」の凱旋ショーを武道館で観る機会を得て、さらに、見たことのなかった自由な発想の服に感銘を受けました。

70 年〜80 年代は、海外のブランドをただ単に取り入れたり真似たりするのではなく、「comme des garcons」や「Y's」といった世界を見据えて活躍し始めていた日本人デザイナーたち、同時に BIGI、メルローズといったいわゆる DC ブランドが、自らの意思を持って自分たちに似合う服、着たい服、を発信し始めました。私自身、西洋的な美意識や既成概念の外にある、自由な日本人デザイナーの服に、心を奪われていきました。それまでの、西洋的な美しいプロポーションの女性に着せたい服ではない、日本人独特の感性に訴える、日本人のための、日本の女性が自ら選んで着たい服の提案がされるようになったのがこの時代だったと思います。次々とファッションブランドが立ち上がり、ファッションが大衆のものとなり大量に消費し、様々な経験をすることで、ファッションを学び、身につけていったのだと思っています。

2.日高さんの編集者人生はレディース誌から始まっていますが、その後メンズ誌も長く経験されていますね。レディースからメンズの専任になって感じたことは?

ファッション誌の「MORE」を経て、「LEE」の編集をしていた頃、"男ももっとおしゃれしたい、女性と同じようにお洒落を楽しみたいよね”というムードがごく普通の若い男性の中でも高まってきました。旧来のメンズファッションはアイビーもそうですが、男はこうであらねばならない、というようなルールや概念にまだまだ縛られていました。"男性を男性の背負っている重い役割から解放したい”という思いで「MEN'S NON-NO」が創刊され、以来メンズ誌の編集にも長く携わることになりました。日本の高度成長期から続くあの大量消費時代、国内のメンズブランドが次々と出てきて、成功もあった反面たくさんの失敗を経験してきました。けれどもそういう失敗を重ねて、日本はすごいスピードでメンズの洋服を学んでいったんです。堰を切ったように押し寄せたインポートブランドブーム、裏原宿から生まれたストリートファッション、いろんな文化を吸収した日本発信のメンズブランドがやがて世界を動かしていく。世界中で日本人の男性はお洒落だと思われるようになりました。海外のコレクションに行くと、「日本のプレスの男性って本当にお洒落ね!」とよく言われたのですが、思えば日本の洋服の歴史は 100 年足らずなのに、すごいことだと思います。

3.紙が主流だったファッションメディアがデジタルに移行していくなか、日高さんが感じていたメディアの変化はありますか?
3.紙が主流だったファッションメディアがデジタルに移行していくなか、日高さんが感じていたメディアの変化はありますか?
言わずもがな、ファッション情報の入手手段はかつては雑誌でした。「これが新しいですよ!イケていますよ!」というのを発信するのが雑誌の仕事だったし、みんながそれを知りたいと思ってくれていました。ところがインターネットが普及しはじめると、1997 年をピークに発行部数は次第に減少傾向、雑誌のコンテンツも着回し術のように、読者にとってコストパフォーマンスの良いものが人気を得るようになります。2005 年〜2010 年には海外のファストファッションが上陸し、情報は"自分の身近な人がこんなものを着ています"というのに「いいね!」で繋がっていくような、さらにパーソナルなものに変容しました。興味のないものは見なくて良い。自分で好きなものを選んで、自分が心地よくあれば良い。一方的に伝えられたものをお小遣いを貯めて買うのではなく、消費者が自ら情報にアクセスできる時代になり、新しさを雑誌に頼る必要がなくなったんです。編集者としては、従来のアプローチが通用しなくなったという意味では苦心しています。

紙のメディアがデジタル化を目指すようになり、私自身も IT 関連のいろんな方にお話を伺いました。そんな中で、紙のイメージが強い雑誌のデジタル化を真剣に聞いてもらえない場面もありましたが、何が新しくてかっこいいのか?結局は時代を読むセンスのあるファッションの人たちと繋がりたいと、IT 業界の皆さんが思ってくださっている。勉強では習得することができない、マーケティングだけでは通用しないのがファッション。先がわからないものが詰まっていて、だからこそ面白いし、次にどうなるのか知りたくなる。デジタルとファッションは実はとても近く、繋がっていける可能性を感じました。

4.スピーディーに変遷するファッションメディアやアパレル業界で、これから働きたいと考える方にメッセージはありますか?

総合出版社の就職志望者数は減っていませんが、ファッション誌を志望する人は減っているかもしれません。アパレル企業を志望する人も減っていると思います。それでも、ファッションを目指す人たちに伝えたいのは、「ファッションが持つ意味と価値が失われることは絶対ない」ということ。前に進むために、人は服を着たり靴を履いたりします。より良く装いたいと思い、人間らしく生きていきていきたいと願う。その時に何を選び、装うか?というのは、その人の生き方に関わると思っています。大量の情報から自分で欲しい情報を探す時代、かつてのように次々と新しい扉を開いてもらえるようなことが難しいと感じたら、ファッションが今まで歩んできた歴史やストーリーを、映画や本で追体験してみるのもいいかもしれません。ファッションが人に与えてくれるものを知り、それを信じる人であることが、ファッション人として大切だと思っています。

5.ニューファッションや DC ブランドブーム、セレクトショップブームを支えた日本のアパレル企業が、メルローズと同じように創業から半世紀を迎えています。現代まで長く続いているアパレル企業をどのように捉えていますか。ファッション企業のこれからの課題をどのように考えますか?

ファッションが持つ力、ファッションが人に与える意味を信じている人たちがやってきたからこそ、ここまで続いているのだと思います。熱や愛情を持ち続けることは尊いし、ファッションはそれでしかない。それがファッションの仕事だからです。長く続いているのは、そういうことを繰り返しながら進んでいる、進んできた、そういう企業だと思っています。いかにサスティナブルと向き合うかが課題になっていますが、言われるからやるのでは意味がありません。捨てられた服をどうするのかー?捨てられない服をどう作っていくのか?地球環境というよりまず、服と人がどう関わっていくかについて考えなければ。それは洋服やファッションに愛のある人、企業でなければできないと思っています。

メルローズ50周年 特別対談
メルローズ50周年 特別対談
メルローズ50周年 特別対談
メルローズ50周年 特別対談

WWDJAPANオンラインでは、
日高さんのインタビュー本編「メルローズと私 Vol.03」を掲載中。
過去の連載アーカイブと共に連載をお楽しみください。

WWDJAPAN対談記事はこちら