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「染める」だけじゃない染め替えプロジェクト MELROSE×京都紋付 “染メル”【後編】
株式会社メル・ローズの創業50周年を記念して始まった、京都紋付様との染め替えプロジェクト“染メル”。
【前編】では、染め替えの工程についてご紹介しましたが、今回の後編では、染め替えプロジェクトを立ち上げられた4代目である荒川徹氏に、黒染めについて、また今後の展望について詳しくお話を伺います。
―まずは、「京都紋付」という社名にもあるように、紋付の事業について教えてください。
日本の伝統的な正装である家紋を付けた着物である紋付、さらには黒のみを染めてきました。
元々京都の染め屋さんは柄を染める染め屋さんと無地に染める染め屋さん、更に色物と黒で分かれます。
その中でうちは黒の無地の染め屋さん。
100年以上前から黒に特化しているので、黒の色を極めることと品質に関しては世界でも最高レベルであると自負しています。
―現在も紋付を染める事業も行っているんですよね?
昔は1日に1,000反近く染めていましたが、今は1年間で1,000反程度。
全体の売上の1%にも満たないです。
それだけマーケットが小さくなっています。
100社が所属していた京都黒染工業協同組合もなくなり、いま京都で黒染めをしているのは3社だけ。
黒紋付は嫁入り道具としても持っていくような誰もが持っている着物でしたが、私の娘にも「持っていかない」と言われました。
いま紋付をお召しになる方は、例えば歌舞伎や能の役者さん、お相撲さん、
そして天皇陛下から叙勲を受ける際の衣装は、第一礼装であるモーニングか黒紋付です。
紋付は国で制定された着物の第一礼装なので、伝統のあるお仕事の方々は大切な儀式でご着用になります。
ー長年にわたり紋付の事業を行ってきた御社が洋服の染め替え事業を始めることには思い切りを感じます。何かきっかけはあったのですか?
業界も衰退していく中で和装だけに拘っては会社を維持できない状況だったため、本業を縮小し、本格的に洋装事業を展開することにしました。
伝統の中で培ってきた技術を頑なに守りながら、その技術を今の世の中に発展的に活かしていく事が、伝統を守ることだと考えています。
OEMでアパレルメーカーとの協業を始めて、2013年から今回の染メルのような染め替え事業も始めました。
昔から着物の染め替えをしている中で、年に数点だけ洋服の染め替えを請け負うことはあったんです。
これをひとつのビジネスにしようと試みました。
ちょうど染め替え事業の立ち上げに向けて準備していた頃、WWFジャパンさんから廃棄削減のために古着の黒染めができないかというお話をいただきました。
それが染め替え事業の最初です。
それから色々な人に知ってもらってスキームを見直しながら現在に至ります。
イベントに参加した際のブースを本社社屋に展示されています。
ー染め替えを注文される方はどんな方が多いですか?
男女比はほぼ5:5。少しだけ男性の方が多いかな。
年齢は少し高めの人たちが多くて、送られてくるアイテムは価格帯の高いブランドが多めですね。
地域は関係なく、全国から送られてきます。しいて言えば人口比率ですかね。
ー先ほど染め替えの現場を見せて感じたのですが、黒から黒へ染め替えする方も多いんですね。
なんとなく白や淡い色のシミや黄ばみを染め替える方が多いのかと思っていたので意外でした。
黒も多いですね。使用感があっても新品のように生まれ変わるので。
ーサンプル品を染めていただいた際、黒さに加えて柔らかさと撥水効果にも驚きました。
ゴワゴワしていた使用感がなくなったり、水を落としてもコロコロと転がったり。
持ってる服がちょっとグレードアップするよってことを伝えたくて、今回の「染メル」の打ち出しにも「染めるだけじゃない」という言葉を入れたんです。
年を取って枯れてきたら生き返らせるみたいなイメージですね。
撥水については、左が未加工で、右が深黒加工済み。
これは洗濯してもほぼほぼ落ちません。
ー御社は数多くのアパレルメーカーと取り組みをされていますが、
過去にやった取り組みで印象的なものはありますか?
ある有名なメゾンが、京都に初出店するということで、限定品として日替わりで1週間着られる7タイプの真っ黒のシャツを販売されました。
あれはとても好評でしたね。
ー京都への初出店と京都でずっと事業をしてきた御社のコラボというのもストーリー性があって素敵です。
今後アパレルメーカーとやってみたいことはありますか?
最初から染替えすることを前提にデザインしたお洋服を作ってみたいですね。
汚したり飽きてきた頃に弊社に送ってもらえば違った色で2回着られるようになるという仕組みを作りたいです。
ーお洋服を染め替えて、もう一度長く着られるというのはファッションの楽しみが増える上にサステナビリティへの取り組みとしても関心が高まっていますよね。
一方で染色による環境負荷については何か対策があるのでしょうか?
京都では使用している染料をチェックされ、浄水設備上問題ないものと判断された上で下水に流すルールになっています。
弊社でもチェックを受けて、環境負荷の少ない染料を使用しています。
また、着物業界はアゾ染料の使用がOKとされていますが、京都紋付では働き手を守るために1996年から使用していません。
ー伝統産業を守っていくこともサステナビリティのひとつと考えますが、荒川社長自身も4代目ということで、伝統産業を継承する大変さを感じることもあったかと思います。
日本の伝統産業を守る上で、大切なことは何だと思いますか?
日本の伝統産業は厳しいところばかり。
染色も縫製も、メーカーはもっと工場を守っていって欲しいと思います。
海外メゾンも日本の伝統技術には注目していて、彼らは付加価値を認めてくれるのに対し、国内メーカーは値切る文化ができてしまっていて、それを続けていると良い技術が潰れていってしまう。
工場も技術を勉強し続ける必要があって、メーカーはそれをしっかり伝えて売る方法を考えないと、日本でのものづくりは出来なくなってしまいます。
さらに、最終的にはどちらも潰れてしまうと思います。
あとは後継者問題。うちはいま息子が会社を手伝ってくれていますが、息子に継がせるには将来性がないといけない。
僕自身がチャレンジしいかないと、次には繋がらないんですよ。
僕の親父もチャレンジする人だったから、自分もチャレンジする姿を見せていきます。
ー京都紋付が長年続く理由が少しわかった気がします。
本日はありがとうございました。
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ただ“染める”だけじゃない京都紋付様の黒染め。
環境や社会に寄り添ったサスティナブルなお取組みというだけでなく、思い入れのあるお洋服に新たな価値を加えてくれます。
着られなくなった服、着なくなった服を、黒く染めることにより、もう一度、そして長く着ませんか?
ご興味を持っていただいた方は、ぜひこの下のリンクより、特別ページをご覧ください。